戦後の荒廃した姫路のまちで現在の礎をハイデルベルグと築く
船場印刷株式会社は、まだまだ戦後の焼け跡残る兵庫県姫路市船場地区で、昭和27年に創業。社名もその場にちなんでつけられています。当時の姫路は製造業が盛んで大きな工場がたくさんありましたが、同社は国産の活版印刷機1台と簡単な製本設備のみで、封筒や伝票などの注文をこなす活版印刷屋でした。もともと姫路は歴史ある城下町であり、西日本では人口が多く市場としては大きかったのですが、既存の印刷会社がその多くを押さえていたので、印刷屋を開業したものの、付加価値のある単価の高い仕事は受注できませんでした。
そのような中、昭和30年代に入ってくると、戦後の復興と経済の発展とともに印刷需要は高まり、ハイデルベルグ プラテンの導入を決断。当時、国産機の3倍の価格ではあったのですが、パフォーマンスはそれ以上のもので大変満足していました。そのプラテンは現在も活躍しているといいます。
昭和45年には現在の場所に引っ越し、これに合わせて同社はフィルムと樹脂凸版をいち早く導入、鉛活字・活版印刷をやめることを決断し、写真製版に転換することになります。この大きな転換は同業他社にも大きな影響を与えることになりました。これにより同社は、伝票・封筒中心の仕事から、ページ物の取扱説明書・一般商業印刷を大手メーカーや地場の金融機関・官公庁などから受注するようになります。もう一つの大きな特徴としては、大手電機メーカー関連商品のラベル印刷・シール印刷などの特殊印刷もあるきっかけで手掛けるようになったという事。現在同社が目指す<印刷+加工>という高付加価値印刷はここから本格的にスタートします。
その後、昭和から平成に向かう中、印刷業界は8兆円、9兆円とも言われていた時代では、印刷会社は印刷機を導入することで規模を拡大し、活字から写真製版、その後デジタルへという流れが急速に加速していきます。しかしながら同時にお客様においてもコンピュータの導入が進み、これまで印刷会社に外注していたドキュメントの作成などは内製化され、徐々に印刷物の受注は減っていきました。このようなことを背景に、同社は、品質管理・デジタル化を推進しながら、さらに付加価値の高いものを取っていく方向に舵取りをします。
印刷市場は徐々にシュリンクし、色数が増えても値段は上がることはなく、逆に印刷の値段が下がってきています。しかしパッケージ印刷や、ひと手間かけた加工に関しては横ばいか微増で値段もあまり落ちることはなかったといいます。これまで同社は印刷部門を中心に設備投資し、前後の工程、特に加工という面ではあまり積極的な投資をしてこなかったため、その部分を丁寧に進めていくことを検討しました。加工については、ハイデルベルグのKSBによる薄紙の打ち抜きをはじめていく中で、近隣からも端物や厚紙・箱の仕事が徐々に増えていくようになります。また、菊四裁判スピードマスターSM52の導入で印刷の生産性も大幅に上がってきた為、打ち抜き加工がKSBでは追いつかなくなり、設備の増強が必要になってきました。
インターネット時代に入り、市場も急速に変化するようになると、特別なもの・自分だけのものという一味違う印刷物の需要が高まってきました。特別感のある箱物やグリーティングカードなどについては、高値でも市場に受け入れられます。市場の変化を捉えさらにビジネスを展開するために、打ち抜き/箔押し機を兼用するKMA DC 76 Foilの導入を決断します。導入の一番の魅力は、「一台で打ち抜きと箔押しが兼用できること」と藤塚社長は言います。「専業者からみると中途半端な兼用機ではうまくいくわけがないという評価もあったが、今後のことを考えるとデジタル制御されている機械がこれからの若いオペレータに取っても良いであろう」と考えたそうです。しかも省スペース。パッケージ専業ではないので、箔押しも1年を通して受注するほどでもなく、7割打ち抜き、3割箔押し。KAMAであれば十分に対応できると判断できます。また、専用機になると打ち抜き機、箔押し機と2台分のスペースが必要です。「兼用機では切り替えに時間がかかるようなイメージはあったが、実際にはそんなに負担になるようなことはなく兼用機でのメリットの方が高い」とのことです。
KAMA DC76 Foil導入のメリットについて藤塚社長は次のように続けています。「1台で箔押しして打ち抜きも出来るという事は、用紙に対して同じ針で加工が可能な為、品質・精度の面で非常にメリットがあります。特に、特殊紙で付加価値の高いものを狙っている為、紙を小さくし、予備紙も少なくする事でロスを減らすことができ、お客様にとっても無駄がありません。」狭い幅でロングラン・安定して生産するという考え方は、以前から同社の徹底した考え方です。KAMA DC 76 Foilの導入により、デジタル印刷機を活用したよりパーソナライズされた市場への参入や、偽造防止・セキュリティ印刷などのニッチな市場への参入も視野に入れた新たなビジネスモデル構築の展開もでき、製版・印刷・製本加工までを内製化できるからこそ、スピードが求められる市場に対応することができるといいます。藤塚社長は「お客様のニーズを正確に掴んでいないと、何もかも無駄になる。この機械でこんなことができるからと、プロダクトアウトの考え方では先行きが無い。お客様のニーズを掴み、お客様の要望を超えた提案をすることが、プロフェッショナルとして60年にわたり歩んできた、船場印刷のこだわりです。」と締めくくりました。