日本一高いビル「あべのハルカス」から車で5 分ほど、大阪市東住吉区に本拠を構える有限会社樋口印刷所は、下請け率が9割を超える「印刷会社のための印刷会社」です。
従業員はわずか13名と少数精鋭ですが、その多くが印刷機オペレータとしての高い技術と経験をもつ職人気質の熟練スタッフばかりです。このため顧客である印刷会社が次々と持ち込んでくる難しい仕事に対しても、一目見てその場で「できる」「できない」を即断できる「対応力の速さが強みだ」と代表取締役社長の樋口裕規氏は話しています。そして「できない仕事はほとんどない」という、プロに鍛えられたプロによる卓越した技術力こそが真の強みとなっています。
創業は昭和45年。1台のハイデルベルグ機からはじまった同社の事業は50年の歴史を刻みながら、地元である大阪エリアで確かな地歩を固めてきました。現在は2色機から4色機まで菊半裁判クラスで統一した5台の印刷設備を有し、そのすべてがハイデルベルグ機であることもまた、顧客の信頼を勝ち取る上で大きな力になっていると樋口社長は指摘します。しかも「最初のKORDは40年間使い続けた」とハイデルベルグ機の高い安定性と耐久性に絶大な信頼を寄せ、「長い目で見れば確実に儲かる印刷機だ」と絶賛しています。
同社は創業以来、一貫して刷り専門の下請け業者として歩んできました。創業当初はチラシやパンフレットなど商業印刷を中心に事業を展開。当初1台だったハイデルベルグ機を増設しながら、現在では菊半裁判クラスのスピードマスター機5台(2色機2台、4色機3台)を保有するまでに業績を拡大しています。
ただ50年を経て、同社の仕事内容は大きく変わりました。チラシやパンフレットなど商印の仕事は激減し、シールやパッケージ、ラベルなど包装関係の仕事、特色の仕事が急増しました。和紙や不織布、フォイル、ユポ、厚紙など特殊紙を扱うことも多く、印刷会社が持て余す難易度の高い仕事、リスクの高い仕事が大阪各地から樋口印刷所に集まるようになりました。
きっかけは10年前に同社が日本で初めて導入したハイデルベルグの菊半裁判4色機スピードマスターXL75-4でした。このXL75は倍径の圧胴とエアによる無接触の用紙搬送で、薄紙から最大0.8mmの厚紙まで幅広い仕事に対応でき、厚紙印刷を得意としてきた同社の確かな基盤となりました。これに対して普通紙の仕事は2台の菊半裁判4色機(スピードマスターSM66-4H)が担っていました。導入から21年間で約2億枚の通し実績がある、同社の成長を牽引してきたベテラン機ですが、今年8月、内1台を最新機種のスピードマスターCX75-4に入れ替えました。その理由について樋口社長は次のように語っています。
「厚紙の仕事が増えてきたので、XL75をもう1台入れたいと考えていました。ただ工場の設置スペースに制限があるので、コンパクトで場所をとらないCX75を導入することに決めました。CX75も上位機種のXL75と同じ倍径の圧胴を搭載しているので、用紙搬送性能に差はありません。最大紙厚も0.6mmまで対応するなど、XL75と比べて遜色はありません」同社の印刷設備を保守管理し、トラブルゼロの運用を図っているテクニカルマネージャーの中谷和美氏も「XLクラスをベースに機能をシンプル化したコストパフォーマンスにすぐれた印刷機だ」と高く評価しています。今回、同社が導入したスピードマスターCX75もまた、10年前のXL75同様、日本1号機となりました。
印刷会社から依頼される多種多様な仕事を迅速に処理するためには、印刷機にあわせて仕事をうまく割り振らなくてはなりません。このため同社では2台の2色機(15年前導入のPM74-2と昨年導入のSX74-2)には1/1色の両面印刷や特色印刷を、4色機のSM66-4には普通紙中心、XL75-4には厚紙中心、そして新しいCX75-4にはコート紙でプロセス4色など「レギュラーの仕事」を任せることで、無駄のない効率的な生産体制を構築しています。
新しいCX75はコート紙でも従来機のようにキズやコスレに気を使わなくて済むため、生産性が飛躍的に向上しました。紙積みから色出しまですべて一人で行うワンマンオペレーションでも1時間あたり2~3ジョブを処理でき、1,000枚以下の仕事なら1日の平均仕事量は16台から20台に増えて、残業時間も平均2 時間短縮できました。
担当オペレータは「印刷機に集中できる」「汚れやコスレなどが気にならない」「紙の流れがスムーズ」「前準備の手間が少なくなった」とCX75を絶賛しています。
操作性、作業性も、慣れ親しんできたハイデルベルグ機とあって、導入からわずか1週間で使いこなせるようになったそうです。印刷機をハイデルベルグに統一することで、たとえ担当オペレータが休みでも「誰がが動かせる」そんな工場環境が同社には出来上がっていました。
同社の製版部門にはハイデルベルグのスープラセッターA105が導入されていますが、1日の出力版数は全使用量の3割弱(約80版)ほどで、残りの刷版は顧客支給によるものです。刷版だけでなく本紙を支給されるケースも多く、印刷オペレータは予備紙に限りのあるなかで「顧客が満足する印刷品質を達成しなくてはならない」と樋口社長は指摘します。
「当社には160社を超える大阪圏内の顧客から毎日毎日、実に様々な仕事が持ち込まれてきます。印刷オペレータはつねに違う用紙、刷版、絵柄に向きあいながら、真剣勝負でスピーディかつ正確な色出しを行っています。お客様が持参した色見本と同じ色を出すことが目標なので、キズ付きやコスレを気にしないで済む、前準備に手間のかからないCX75は最高のパートナーといえるでしょう」
まさにCX75に搭載された倍径の圧胴や用紙搬送技術、用紙ガイド/エア量の自動設定機能などハイデルベルグの最先端技術が、樋口印刷所の職人技を支えています。価格競争の激しい一般商業印刷から、印刷会社が嫌がる厚紙、特殊紙、特色など高難度・ハイリスクの仕事、付加価値の高い仕事へと事業内容をシフトすることで、売上は減っても利益率は大きく拡大しています。厳しい印刷業界のなかで中小の印刷会社が生き残るひとつの道を、樋口印刷所が示しているのかもしれません。
有限会社樋口印刷所
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