1978年(昭和53年)創業の株式会社日版プリントは、主にパッケージや販促ツールなどの厚紙を中心に、刷版、印刷、紙器加工まで全てを自社一貫工程で製造する大阪市生野区にある印刷会社です。その日版プリントで、ハイデルベルグのデジタル枚葉印刷機バーサファイアCVを導入し、印刷通販部門を担っているのが、スプリック事業部です。
「当時、オフセット印刷機でやってきたパッケージや販促物の部数は明らかに減少していました。そこで、弊社の社長が、特に小ロットへの対応は急務と考えて、オンデマンド印刷ビジネスを立ち上げることを決めたのです。」と、印刷通販を担うスプリック事業部を立ち上げから現在に至るまで率いてきた事業部長の後藤匠氏は、デジタル印刷機導入のきっかけから語り始めました。
日版プリントにとって、デジタル印刷機は初めての導入だったので、その選定プロセスは慎重かつ丁寧に進められました。「品質を重視してきた日版プリントとしては、デジタル印刷機を選択する上でも品質は重要な選定基準でした。ですから、機種選定にあたっては、同じ絵柄を用意し、デジタル印刷機メーカー各社様に印刷をしてもらい、その結果を比較しました。そして、オフセット印刷との違和感が全くなかったのが、ハイデルベルグのバーサファイアです。他社さんの印刷物の仕上がりは、コントラストが強く、明らかにオフセット印刷とは別物の仕上がりでした。今考えれば、プリネクトでオフセットと同じ色分解をしているからこそ一番簡単に色を合わせることが出来たのだと思います。」と後藤氏は当時を振り返ります。 「私たちにとって次に大切なのは、表面加工、後加工のし易さです。これも実際にすべてテストして比較しました。ここで表面加工というのは、OPニス、マットニス、クリアPP、マットPP、プレスコートの5つです。パッケージ印刷会社である私たちにとって、その出来上がりは非常に重要です。バーサファイアは、この5つの表面加工をすべてクリアすることが出来ました。」と、パッケージ印刷会社ならではの選定基準について述べています。更に、「見当性も確認しました。なぜなら、後工程である抜きのプロセスにおいて見当性は無視できないからです。
他社のデジタル印刷機では、310gの用紙をスピードダウンして印刷しても見当が1mmぐらいずれているものが100枚中2割くらいありました。ところが、バーサファイアではバッチリでした。しかも、360gまで厚い紙が通せることも魅力です。」と、バーサファイアCVが次々と日版プリントのデジタル印刷機選定基準をクリアし、2017年末の導入に至ったことを明かしました。実は、これが日版プリントにとって、ハイデルベルグとの初めての取引だったのです。
オンデマンド印刷、デジタル印刷ビジネスを立ち上げようとしたものの、検討してみると、従来のお客様との取引では、小ロットでペイできる案件はありませんでした。そこで、出てきたアイデアが、パッケージにフォーカスした印刷通販でした。しかし、一般商業印刷とは異なりパッケージには、縦、横の寸法に加え、高さ、奥行きがあります。その寸法を平面に計算し直して、その上で見積を作成しなければなりません。しかも印刷通販故に、その見積はすぐにお客様に表示されるようにしなければなりません。スプリックでは、ネット決済の部分はサードパーティーに任せたものの、それ以外の寸法の計算、プログラムはすべて自社内で行い、正味一年をかけて、ソフトを開発したと言います。また、菊四裁でパッケージビジネスができるのか?という疑問に対しては、「実は私たちは、最初からすべての市場を狙おうとは考えていませんでした。最初は限られた市場を狙っていこうということで、化粧品や健康食品のパッケージにターゲットを絞っていたのです。その化粧品や健康食品に使われているいろいろな箱の形状を事前に見ていった中で、ほとんどのパッケージが菊四サイズに入ることを確認していました。しかも私たちがここで狙っているのは、小ロットです。わざわざ菊全用紙に四丁付けして印刷していたら、とてもじゃないですが、コストは合いません。」と、菊四裁サイズのデジタル印刷機が、絞り込んだターゲットに最適であることを確認してのスタートであったことを明かしています。
2018年4月、いよいよゼロから立ち上げたパッケージ印刷通販サイトSPRIQがスタートしました。「最初の2年間は本当にしんどかった。できることは何でもやりました。ネット広告を出したり、SEO対策をしたり。さらに、通販なのに、宣伝もかねて飛び込み営業までやりました。」と、後藤氏は照れ笑いを浮かべて言います。4年経った今では、そのパッケージ印刷通販サイトSPRIQは、会社全体の2割弱の売上を上げるまでに成長しています。スプリックのお客様の9割以上がエンドユーザーで代理店など同業者からのお仕事はあまりありません。現在の約1000件の取引先のほぼ9割5分はリピーターだと言います。「今までのプロセスだと1週間はかかるものが、今では、データを頂き、印刷し、抜いて貼って、翌日にはお客様にサンプルを届けられます。そのスピード感にお客様は驚かれますが、更に印刷品質の良さにも感動して頂くことで、高いリピート率を維持しています。バーサファイアでなければこうはいかなかっただろうと、本当に心から思いますし、今でも導入したことに100%満足しています。」と、バーサファイアを称賛します。短納期が実現できる理由としては、「ひとつには全部操作が完結するプリネクトDFEの操作性が非常に容易で誰でも使えるという点、また、弊社の強みとも言えるひとりのオペレータが複数の加工機を使うセル方式にあると思います。」と、短納期を提供できる強みの秘密を明かしました。続けて、「今までとは違うお客様が見えてきました。箱の形状やデザイン、いろんなバリエーションを作って、まずは市場の反応を見たい。取り敢えず作って市場に出して、反応を見たい。これが本当の“小ロット多品種”だとわかりました。お客様が求めているのはこれだ!」と、当時の感動を改めて表現しました。
「バーサファイアで印刷する30枚のスウィングPOPで取引が始まったお客様が、現在は年間数千万の売り上げになっているケースもあります。経営者の皆さんの頭の中にはバーサファイアの稼働率とか工賃で採算取れるか?というイメージがあると思いますが、バーサファイアでやれる仕事がきっかけとなって、大きな仕事を獲得できている事例は実はとても多いのです。バーサファイアがなかったら、そうしたお客様とはお取引できていない。これは会社全体にとって大きなメリットです。」と、バーサファイアの間接的な強みについても語りました。
今後は、形状、表現のバリエーションを増やすと同時に、お客様の業種に応じてオーダーしやすい流れをサイト内で作っていきたい。全くゼロからのスタートでしたが、パッケージにフォーカスした印刷通販として、バーサファイアCVとともに、品質、スピード、価格で国内No1になるというビジョンをもって、ここまで何とかやってきました。そして、今もそのビジョンは変わっていません。これからも執念をもって、皆で続けていきたい。」と、スプリック事業部事業部長の後藤氏は、更なる成長への強い意志を表してインタビューを締めくくりました。