これまで印刷会社の多くは、PODをオフセットの補完機だと考えてきました。あくまでもオフセット機がメインで、それでは対応できない、小ロットや短納期のためにPODを導入するという理屈です。しかし、「紙加工のお困りごと解決屋さん」を自任する株式会社ペーパークラフトイトウ 伊藤大介社長の考えは、そうしたニーズとは大きく異なります。
「私たちがもともと求めていたのは、色紙にちゃんと白がのってくれること。それに、紙の種類を選ばないこと。もちろん、バリアブルもそうです。PODはトナーを厚く盛れるので、それを生かしたらもっとパキッとした色が出るのではないか…。そう考えていくと、同じ印刷でもオフセットとは違ったものをつくり出せる可能性があると思っています」
実際、同社では、バーサファイアEVを使って、新たな印刷表現のさまざまな可能性を追求しています。例えば、ある自動車部品メーカーのデザイン部門から受注したクリスマスカード。依頼の内容は、なんと40 人のデザイナーがフリーハンドで手書きした「Season's Greetings(クリスマスおめでとう)」の文字を重ねて印刷してほしいというものでした。
さすがに40回通しはムリだが、3、4回ならいけるかもしれないと考えて、実際にバーサファイアEVで印刷してみました。すると、複数回通した際の微妙な見当のズレが1枚1枚異なった表情をつくりだし、さらにかすかな汚れが手書きのようなリアリティを表現する作品ができあがりました。「クライアントからは汚れがいいと言われ、従来のオフセット印刷機とは、ずいぶん違った使い方ができるということを実感しました。もちろん、クライアントからは高い評価を受けています」と伊藤社長は話しています。
ペーパークラフトイトウは1915年(大正4)、静岡県浜松市で伊藤荷札として創業しました。1982年(昭和57)に株式会社化すると、紐付け機を導入してアパレル向けの商品タグに進出。さらに型抜き機、折り機、中綴じ機を導入し、ポストプレスの世界へと足を踏み入れていきます。
転機が訪れたのは10年ほど前。モナコの最高級パッケージの見本市「ラックスパック」で、伊藤社長は出展されているパッケージの凝った形状に度肝を抜かれ、またそれら一流メーカー向け高級パッケージを仕掛けているのが印刷会社だと知って、自社の先行きに大きな不安を感じ始めたのです。
「言われたものをつくっているほうが楽だけど、はたしてそれは、プリントバイヤーが本当に欲しいものなのか。だったら、私たちが今どんな形のものを提供できるのか、自分たちで仕掛けていける会社にならなきゃいけないなと痛感しました」
同社はデザイン部門を立ち上げ、Webサイトを整備し、さらに映像やプロジェクションマッピングなどさまざまなメディアにもチャレンジしていきます。一方、基本的に印刷会社が内製化した仕事は受注せず、社内に設備や技術、ノウハウがなく、周りの協力会社でもできない紙加工を担う「紙加工のお困りごと解決屋さん」に特化することで、地域を越えた大手企業のセールスプロモーションを提案する業態へと大きく転換していきました。その結果生まれた仕事で、印刷会社に発注するケースが増えてきたことも、バーサファイアEVを導入する直接のきっかけです。
プロモーションツールを制作する中で、特に色がつき、表面も均一ではないファンシーペーパーへの印刷に不満を持った同社は、PODならうまくいくかもしれない、と期待をかけました。懸念は、「はたして今、PODで利益を出せている会社はどのくらいあるのか」ということ。それでも導入しようという決断を後押ししたのは、ある高級楽器のカタログでした。その1台1億円という楽器のカタログの後加工を同社で受注したのですが、なんと印刷はPODだったのです。
「1億円の製品のカタログなら、ものすごくハイスペックな印刷機で刷るのがセオリーだと思っていました。それでもう、完全に目からうろこが落ちました。これはちょっと、考え方を変えないとまずいなと」バーサファイアEVを導入するに当たり、同社では印刷機オペレータの経験者を新たに採用するのではなく、社内のデザイン部門である宣伝部のデザイナーを充てることにしました。その操作性の高さから、デザイナーはすぐに実戦に対応。オフセットで印刷したもののリピートをデジタル機で刷るという難しいジョブも、まだ研修途中にもかかわらず、見事にこなして伊藤社長を驚かせています。
「プリネクトとバーサファイアがあれば、多少デザインの経験がある人材ならば操作を覚えるのは簡単です。その意味で、印刷のハードルはものすごく下がっていると思います」
導入前には、周りから「PODは狙った色を出すのが大変だ」「リピートの色合わせにものすごく時間がかかる」などと言われていたそうですが、今では「バーサファイアなら、狙った色がぱっと出るよ」と伊藤社長は答えているそうです。
伊藤社長は、「印刷や製本は、世の中にとって要らないものだ」という一方、「今ほど商業印刷にとっていい時期はない」と一見矛盾したことを口にします。必要なのは、プリントバイヤーの伝えたい情報をきちんと伝えることだとすれば、メディアが紙である絶対的な必要性はありません。その意味で、これまで商業印刷にかかわってきた企業が、セールスプロモーションのプロとして、紙以外とのメディアミックスを考えなければならないのは当然のこと。しかし……。
「電子メディアを含めていろいろなメディアが手軽に使える多様化の時代だからこそ、一般商印が面白いと思います。他のメディアがあるから、印刷物の特性が際立つ。印刷物ならではの伝え方やアプローチの仕方を突き詰めていけば、今までよりもはるかに面白いものができてくるだろうし、それが形にもしやすい世の中だと思います」
創業以来培ってきた紙加工の技術に、新たに加わった、同じ印刷でもオフセットとは違ったものをつくり出せる可能性を持つバーサファイアEV。この新しい表現手段の存在は、クライアントに商業印刷= セールスプロモーションにおける新たなソリューションの提供を目指すペーパークラフトイトウにとって、新たな武器となるはずです。
株式会社ペーパークラフトイトウ
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